健康ってすばらしい

子宮体がんサバイバーの随筆

看護実習生のトラウマ

手術から4日が経過した頃、

順調に回復し個室から大部屋に移ることになった。

と同時に、看護実習を受けに来ている専門学校生の子に

面倒を見てもらうことになった。

 

私は俄然、「良い患者」たらんとした。

「良い患者」とはなんぞや

という気もするが、

これから看護師を目指そうとしているうら若き乙女に、

それを諦めさせてしまうような

トラウマを与えてはならぬという

変な使命感に燃えてしまった。

 

毎日先輩看護師さんと病室に来て、

体温を測ったり血圧を測ったり、

「今日の体調はいかがですか?」

と緊張した様子で聞いてきてくれた。

 

なんとも初々しい。

 

ある日、洗髪をしてくれることになった。

以前してもらったように、

手洗い場で椅子に座り

前かがみになって洗ってもらうのだ。

 

髪に全体的にシャワーをあて、

「前の方濡れてますか?大丈夫ですか?」

との声。

「あ、はい。大丈夫です。」

 

言えなかった...

全然前の方濡れてません、と言えなかった...

なんか、一生懸命頑張ってくれているし...

 

そして後々、この偽善を後悔することとなる。

 

なんと、

シャンプーが...

全然泡立たなかったぁぁぁ!!!

ごめんよ〜〜〜!!!

 

あの時普通に

「あ、全然まだ濡れてません。」

とさらーっと言えばいいだけだったのに

変にいい人ぶってごめんよ〜〜〜!!!

逆にあたふたさせてしまってごめんよ〜〜〜!!!

 

必死になって前の方を泡立てて洗ってくれようとするのに

濡れていないせいでまったくもって泡立たない。

お湯がないとこんなにもシャンプーとは

役に立たないものなのだと初めて知った。

 

そりゃそうだ。ドライシャンプーではないのだから!

 

お互いに

「やばっ!全然洗えない!」

という焦りを感じつつ、

なんとか洗い終わった。

 

はぁ

 

トラウマを与えぬようにと気をつかったつもりが

逆に与えてしまったわ

反省

 

そんなこんなで

私の退院が見え始めた頃

抗がん剤の治療がんばってください。」

というお手紙を頂き、

実習は終わりを告げた。

 

まさかその後に私が高熱地獄にうなされて

入院が2週間ものびるとは夢にも思わなかっただろう。

本人も予想していなかったのだから。

 

彼女は卒業後、看護師になっただろうか。

実習に行ったからといって

全員がその職業になるとは思っていない。

 

なぜなら私自身、

教育実習に行ったにもかかわらず

教員にならなかった張本人だからだ。

実習は楽しかったが、

実際に職業にするのとはまた違う話だ。

 

もし彼女が看護師にならなかったとして、

「患者さんの髪が全然泡立たなかった」

というトラウマが原因ではないことを望む。